物語と音楽と自然と魔法

3月の暮れから1ヶ月ほど

ある物語シリーズを読み通していた

 

日本では

マーリンシリーズ

として題されている作品だが

 

原題では

The Lost Years of Merlin 

と名付けられている.

 

 

この物語シリーズの呼称としては

原題の方が

より多くのものを表していると言えるだろう.

 

英文学の古典

アーサー王物語に登場する魔術師マーリン

 

このシリーズに描かれているのは

史上最も偉大な魔術師とされる彼の

誰にも描かれることのなかった少年時代の物語.

 

 

しかしこの本を初めて手に取った

10歳かそこらの僕がそうであったように 

 

アーサー王物語のアダプテーションという枠組みを取り払って読んだとしても

美しく穏やかで勇気にあふれた物語世界に魅了されることは

きっと間違い無いと思う.

 

 

むしろアーサー王の枠組みという先の正解を

知らないでいる人の方が

なんの色眼鏡もなく物語の世界に浸れることができ

より色濃く物語それ自体を味わうことができるのかもしれない.

 

 

僕はこの物語を

人生の転機に読み返す作品と心に決めている.

 

 

そう決めたのは

確か大学の入試本番に突入していたとき

18になるかならないかという頃

 

大学入試という人生においても有数の挑戦に挑んでいる真っ只中に

 

何年も前に読んでから

ずっと頭のどこかにしまってあったこの物語の記憶が

唐突に浮かび上がってきた.

 

 

だから入試が終わるとすぐに

Amazonでこの作品のついて検索して

大学に入る前には

シリーズ全巻を揃えていた.

 

 

この物語を初めて読んだのは

小学校高学年の頃のはずだ

 

実家では

歩いて5分くらいのところに公民館があって

まだまともに歩けない年齢の頃から

その2階の図書館に通っていた.

 

母に連れられ

読み聞かせ会などに参加していたらしい幼少期の僕は

 

だんだんと

自ら読む本を選べるようになり

 

カウンターの正面1番目の棚に積まれている

海外ミステリ作品たちと

その背面と2番目の棚に並べられている

海外ファンタジーの物語たちを

 

片端から読破することに

小学生時代を費やした.

 

 

殺風景な田舎の公民館の内部の図書館は

 

田んぼに囲まれた世界で

少年期を過ごしていた僕にとって

 

ナルニア王国へとつながるクローゼットの如く

様々な世界につながる扉を

無限に隠し持った空間だった.

 

そして

読み終わっては新しい表紙を開き

次々とそこに隠された先の世界を

明らかにしていく探究の中で

 

マーリンシリーズに出会った.

 

 

きっとそこに描かれた

ワクワクするような冒険や

憧れを喚起する魔法の数々

 

それから

10歳の自分が受け入れるには

あまりに大きすぎる決断を迫られる結末

 

思えばこうしたものたちが

少年時代の僕の心を捉えたのだろう.

 

 

ただ今回

人生で3度目のこの物語を経験してみて

この物語のさらなる深みや

少年時代の僕の心を支えてくれたのであろう優しさに

気がつくことができたような気がする.

 

 

それは

自然あふれる鮮やかな物語世界の情景であり

 

少年らしい欠点をたくさん併せ持ち

それでも純粋な勇気を発揮する少年マーリンの姿であり

 

自然の生命力を生かした比喩表現の柔らかさでもある.

 

 

今回読み返している中で

小学校の時に出された宿題を思い出した

 

それは

お気に入りの本の中から好きな言葉を選んで紙に書いていくというものだった

 

この宿題のことはよく覚えているみたいで

嬉々として取り組んだことを思い出した

 

そして読み進めていく中で

当時の自分が心動かされた言葉がどれであったのかを思い出していた.

 

中でも特に印象的な一節がある.

 

音楽は弦に宿るのか

それとも弦をつまびく手に宿るのか

 

あの頃から10年以上の時を経た今だからこそ

この言葉の深みに気がつく.

 

10年後の自分は

更に理解を深めることができるのだろうか.

 

そしておよそ10年が経過しても尚

 

優しく鮮やかで美しくストレートに心に訴えかける物語は

今回も僕の心を癒してくれ

素敵な人間の勇気を教えてくれた.

 

 

物語と音楽と自然に満ちた

魔法の島フィンカイラ

 

次の人生の転換点でまたこの島を訪れよう.

 

 

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