類推

夕方

住み慣れた故郷の風景を眺めながら

ゆったりと散歩をしていた

 

暮れて行く広い空を確かに思い出しながら.

 

暑い暑いと繰り返す日々を過ごしていたが

気がつけばもう9月も半ば

 

黄昏時の空気は

既にひんやりとしていた.

 

目を瞑っても歩ける古里

とは使い古されたフレーズだろうけれど

 

この散歩はまさにその言葉通りのもので

 

歩くというよりは

 

風景に感性を阿ることや

ふと湧き出てくる記憶の断片を味わうことに

時間を過ごしていたように思う.

 

 

伸びやかで静かで自分だけの時間

 

時たま帰る故郷だからこその特権.

 

 

ここに戻ってくる前に考えていたことがある

 

この世で何より救われないのは

どれだけ自分を不幸な人間だと信じようとしたところで

隣の人の頭蓋を割って覗き込めば

自分がそう感じているのとまるで同じように

その人が抱える苦悩が見つかることだろうと.

 

それはひとつの真理であろうし

 

人生に救いなど存在しないことも

生きるとは失うことであるということも

現実は不条理な現象であることも

 

誰にとっても等しく降りかかる条件なのだろうと思う.

 

 

その考えが間違っているとは思わないけれど

 

しかし実家に帰り着いて

その考えを後生大事に崇め奉ろうとは思わなくなった.

 

少なくとも

自分が幸運に生きている存在であることは

確かなこととして知覚させられた.

 

 

あまりに多くの人や構造の真っ只中で

ひとりで暮らしていくことは

心を病んでいくものなのかもしれない.

 

 

今度の帰省によって

自分が何に繋がっているのかを知り

そして幸いを自覚できた.

 

それだけは

類推ではなく確信として語れる.

 

 

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